Bはニヤリと笑った。青のバンダナを頭に巻き、その上にキャップを深めにかぶっている。白いTシャツの上には、ナイロン製で、キルティングが施された紺色のジャケットをはおり、ブルーのジーンズを穿いている。青と白のビーズ・ネックレスが胸元に映える。片耳には、大きなダイヤのピアスがキラリと輝く。
たまたま知り合ったBとその仲間たち。Bの家族は代々続くGangsta Family(ギャングスタ・ファミリー)。家族全員がギャングスタなのだ。小さい頃からギャングになる方法やストリートで生きていくための方法を教えられてきた。彼にとってはそれがごく当たり前のことなのだ。
生き抜くためには、ときに手段を選ばない。ナイフやマリファナ所持などの罪で前科がある。初めてのム所経験は13歳のときだ。誰かが車から鍵をかけずに降り、Deliに駆け込んでいくのを偶然見ていたBは、その隙に車を盗んだ。
もちろん当時は、運転免許証を持っていなかったが、すでに運転の仕方ぐらいは知っていたという。現在は、ラッパーとして活動しているB。
また、歌って踊れる多才なアーティストでもある。テレビ番組やラジオ番組に出演したり、イベントを開催したりと忙しい毎日を送っている。今夜はミッドタウンで、某有名アーティストらとミーティングの予定が入っているという。
「仲間と一緒にカリフォルニアやフロリダへ行って、一通りのことはやったぜ」。
Bは意味ありげに薄ら笑いを浮かべる。
「っていうと?」
「女もWeedも、酒もクラブも一通り楽しんだってことだよ」
「良かったね。楽しそうじゃん」
「だろ?」。
Thug(ワル)としてストリートを生きる若者にとって、Bの言う「一通りのこと」を経験することが、一つの夢(ストリート・ドリーム)であるのかもしれない。
「ねぇ、ラップしてよ」。
私はBに言った。「えっ? いま、ここで? うーん……わかった。いいか? でも君のためだけだぜ」。
そう言うと、Bはまわりの様子を窺いながら私の耳元に口を近付ける。私との出会いについて、また私たちが共有しているこの時間の中で、自分が感じていることなど、小さな声でBはなめらかに語り始めた。