面会
三人のこの努力が功を奏したのか、ある時、弘子が、水の代わりを持ってきた際に、「森高上等兵は、立派な先輩なのですね」と言った。
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何の根回しもしていないのに、弘子がこう言ったのには三人とも驚いたが、いずれにしてもこの発言は決定打となった。以後、森高は、三人に対しては、明らかに他の者とは異なった態度で接するようになり、多少のミスも見逃すようになった。
五月末のある日、杉井が中崎、鈴村と三人で洗濯場で作業服を洗っていると、和服姿の娘三人が通りかかった。一人が塀越しに、「兵隊さん、ご苦労様ね」と声をかけてきた。
鈴村がこれぞ好機とばかり返答した。
「ご苦労と思うなら、慰問の面会に来いよ」
「面会に行ってもいいの」
「いいとも。日曜日の九時だよ。幹部候補生班の鈴村一夫に会いにきたと言ってくれ」
面会など来る訳もないと思いつつ、杉井は、見ず知らずの女性と気軽に話ができる鈴村に敬意を表した。
次の日曜日、馬の手入れを終えて部屋でくつろいでいると、鈴村が勇んで入ってきた。
「杉井、中崎、この間の洗濯の時の娘三人が来たよ。ちょっと面会所まで来い」
鈴村がからかっているだけではないかと疑心暗鬼になりつつ、面会所へ行ってみると、確かに先日通りかかった三人の娘が来ていた。三人ともそれぞれ大福やチョコレート菓子などを慰問に持参していた。
杉井たちと三人の娘は向き合って座り、まず双方簡単に自己紹介をした。杉井の向かいは姓を横内といい、撫で肩で細身の小柄な女性だった。少し首を傾けて恥ずかしそうに話をするのが特徴で、杉井はその仕種に女性らしい可愛らしさを感じた。
娘たちが連隊の生活のことを訊くと、中崎と鈴村は我先にとばかり連隊の中でのことを説明しだした。このテーマであれば杉井にも話のネタはいくらでもあったが、何か質問されると中崎と鈴村がしゃべりだして止まらないため、杉井の出番はほとんどなかった。