物思いに耽りながら歩いていた洋一は、ふと足を止めて周囲を見回した。もうかなりの時間歩いていることに突然気付いたのだ。夜に尾行したときは、男の後ろ姿だけを見ながら歩いていたせいで、道をろくに覚えていなかった。どうやら迷ってしまったらしい。誰かに、郷田さんの家はどこですか?と訊いたほうがいいかもしれない。あれだけの豪邸なのだから、きっと近所でも知られているだろう。だがすぐ、怪しく思われるかな、と思い、やめることにした。

どこまでも続く住宅街は特徴がなく、のっぺりして見える。もうどっちへ行ったらいいのか分からない。とりあえず駅に戻って始めからやり直すことに決めると、元来た道を歩き始めた。

一体自分は何をしているんだろう? 今日でもう何度目か分からない疑問にかられながらも歩いていると、小さな駐車場の前に出た。車は一台も停まっていない。地面はところどころコンクリートがむけて、白い砂利が見えている。この住宅街にそぐわない、なんとなくみすぼらしい感じの駐車場だ。そこに一人の女の子がいた。女の子といっても子供ではない。高校生か、いっても二十歳そこそこくらいだろう。膨らんだビニール袋を右腕に掛け、軽くうつむいている。彼女が手にしているものを見て、洋一の足が止まった。

「あ……」

思わず声が出た。ひと目で分かった。女の子が持っていたのは、洋一のルービックキューブだった。気配に気付いたのか、女の子が顔を上げる。目が合った瞬間、なぜか洋一は、初めて六面を揃えたときのことを鮮明に思いだしていた。頭の中で、カチッと何かが合わさる音がした。