青森からは青函連絡船で函館までの旅。海が時化ていたために約四時間の乗船時間のうち半分を嘔吐しそうな気分と戦った。高校時代からこの時期、これまで何度もこの航路を利用してきたがこれほどの揺れにあうことはなかった。特に上下の動きが大きく、沈み込むときはそのまま暗くて冷たい海底へ引きずり込まれそうで恐怖心に襲われた。さらに真っ暗闇の中ドーンと波にぶつかる船首からの鈍い不気味な音と、弾け散る飛沫が小さくて丸い船窓にべたっと張り付く様は、この場から逃れたいと思う気持ちを一層強くするばかりであった。
逃げるようにして船を降り、函館の土を踏んだ。いつもは倶知安(くっちゃん)経由で小樽に向かうことが多かったが、あいにくその時間の列車はなく室蘭回りで行くことになった。これまでは新潟から青森、そして船に乗ったが、今回は上野から東北本線で青森に着いたため連絡船も別の船だった。
札幌に着いたが、目と鼻の先である小樽にその日のうちに到着することはできなかった。翌朝まで電車がなかったからである。
駅の荷物預かりにスキーを預け、十一時を過ぎた札幌の街に出た。マイナス十度以下であることは間違いない。寒くて耳が痛かった。しばれるほどの寒さとはこのくらいの気温を指すのだと思った。このような状況になるとは思わなかった。なぜこんなところまで来たんだろうと苛立たしい気持ちにさえなった。その反面、ジャンプを始めて二年目で自分でも信じられなかったが県大会で優勝し、その結果国体や今回の全日本の出場資格も獲得することができた。その両方の大会で十五位以内に入ると全日本の強化選手に指定されるという話も聞いていた。なんとかしてその仲間入りを果たしたいという気持ちが本音であり、このくらいの寒さに負けていられるかという思いもあった。
二十分ほど歩いて交差点を渡ろうかどうしようか迷っていた。行き交う車はそれほど多くはなく、その殆どがタクシーで凍りついた無表情の街を流れていた。