-------髪のこと-------

1時間目は俺の好きな世界史。中身も好きだが、軽音部顧問の中田先生が、絡みやすくて好きだ。不勉強からくるトンチンカンな質問にも怯まず答えてくれる。時折挟む歴史にまつわる小話も、面白くてついつい聞き入ってしまう。

相談したとき、眼をみてじっくり話をきいてくれる大人は、それだけで貴重だ。うぉ? 目が合った。

「椎名おまえ…」

ん?!という感じで、俺より前の席の皆が振り向いた。

「今日、なんか、ベートーベンみたいだな、頭」

ドッと爆笑。ハイハイ、わかってますよ。直したはずが、道中の湿気でいつのまにか、朝の形状記憶が甦り……。天パ歴長いから、自分の髪の仕様はよくわかっている。

中学のとき、部活の忙しさからくるストレスか、前髪のクセが強くなり、しまいには巻き上がって割り箸が載っかるレベルまでいってしまい、悩んだ挙句に母の担当美容師さんに相談し、ストレートパーマをかけてもらったことがあった。

そう、あれは修学旅行を控えた6月。仕上がった頭をみて絶句した。今風のサラサラヘアに整えられた鏡の中に、いつもの俺はいなかった、当たり前か。今にして思えば、中学生にパーマってオッケーなのか? 週明け登校した日に、クラスに入るまで誰にも気づかれず、席にカバンを置いて「おはよ」と言った瞬間、周りの奴らが息を呑むのが、わかった。

「だっ、誰?」

「誰だ、お前?」

「俺、オレ。椎名」

「シナユー、どうしたんだよ?? あっはっはっ!!」

仲間が笑い転げる。触らせて触らせて、、、女子も集まってきた。さすがにパーマかけたとは言えず、

「オカンにコテで伸ばしてもらったらやりすぎちゃって……」

と、ごまかした。似合う似合う!! ほめてくれる派と、なんで?? 真っ直ぐにしちゃったの? と賛否両論。面白かったが、パーマじゃないと言った手前、次の日から毎朝コテで天パっぽく、母に手伝ってもらい巻く羽目になった。

やってみてわかったが、風にサラサラなびく髪は、俺じゃない。自分の影に、激しく違和感。お前、誰? 前髪をかき上げたときの指どおりの良さに、いちいちギョッとした。手ごたえ、ナシ! ようやく伸びてきて、ふわふわ具合が戻った頃にはなんだかホッとした。

気のせいか、かける前ほどクセっ毛具合が強くなく、イイ感じにまとまるようになって結果オーライ。コテの使い方もけっこう上手くなった。やってみて、よかった。ロングのサラサラストレートの子をみると、しっかり手入れをしているんだな、と感心する。

天パはテキトーに切ってもなんとかなるけど、サラサラは傷みが目立つんだ。俺が振られたあの子も、綺麗なサラサラだったな。。