「眩しっ! 頼んでもないのに、勝手に俺を照らすな!」
橙色した太陽を僕は睨んでツッコんでやることで己の溜飲を下げる。メラメラ情熱的に燃える太陽に不機嫌な僕は八つ当たりをした。僕の不機嫌の源泉は、17歳の僕の体を締め付ける窮屈な制服だ。
有り体に言えば、制服が自分の体に比してむっちゃ小さい。スリムモデルとかジャストサイズという問題ではもはやない。タイトに着こなすというファッションの領域を超えて、ただただ小さい。
上半身のブレザージャケットはまだいける。しかしながら、ズボンがもう限界に達している。特にお尻の部分が左右に引っ張られて今にも破れそうだ。右尻の生地と左尻の生地がお互いを引っ張り合う、片尻対抗・綱引き大会が開催されている。
双方を繋ぐ糸が外部に露出してしまっていて、「もう、限界や!」と断末魔の叫び(関西弁)をあげている。ズボンが窮屈すぎで急にしゃがむと破れて、茹でたてのウインナーのようにパリッと「尻」が生まれそうな感じだ。ズボンよ、もう少し耐えてくれ。
目下、僕はズボンの尻部分に配慮した青春時代を過ごしていた。それほどまでに僕がズボンの破裂を回避しようとする理由。それは、来年から制服がモデルチェンジするらしいということだ。
制服業者から新しいデザインの制服が購入できるまでの間は、少々窮屈でも我慢だ。オカンに制服を買ってくれだなんて贅沢は言えない。っていうか、僕の在学中に、制服変更に踏み切った校長および教頭を即刻シバきたい。
今日は、進路ミーティングという学校主催のイベントである。この学校を卒業した大学生や社会人OB・OGを講師として招いて、先輩卒業生のリアルな話を聞かせ、生徒に将来の進路を自分の頭で意識づけさせるという趣旨のものである。
高校二年生全員の総勢480名が体育館に集められた。僕はズボンが破れないように、下半身をかばいながら後期高齢者のようなスローな振る舞いで体育館の端っこのパイプ椅子に腰をかけた。
ステージ上には本校を卒業し東京の某難関私立大学を経て、大手商社勤務中の社会人OBがマイクを握ってベシャる。演台に拳を叩きつけ、僕ら後輩に向けて自信たっぷりの演説。ゆるめのデザインパーマをあてたヘアスタイル、細身のグレースーツ。
「○○か・ら・の〜?」という、どこかのテレビタレントが流行らせたフレーズを模倣し連呼しまくる。自分大好き、週末は海でBBQしてます、趣味はサーフィンです、彼女は元読者モデルでしたとか言い出しそうな、世間的に言えばイケてる属性にカテゴライズされる社会人である。
僕が彼の事を忌み嫌うようになるまで、ものの五分もかからなかった。熱く雄弁に物語る彼は続ける。
「高校2年のお前らさ! お前らの人生はな、これからの受験戦争をどう頑張るかどうかで全てが決まんだよ! 絶対に志望校に合格して人生変えるんだ! 強いマインドを持とうよ!」
少し先に生まれたからって、少し先に同じ高校に入ったからって、先輩面して、初対面で「お前ら」って言うな、ボケ。苦手な人種から発せられるコトバというものは、なんでこうも頭に入ってこないのだろうか。
あいつの脳内で創り出され、汚い喉頭の声帯を通過してドブ臭い舌や唇を経由し、この世界に生まれたコトバなど到底受容なんかできやしない。第一、僕は進学するのかも、就職するのかも最終的に決めていない。勝手に俺の人生を決定するな。