小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『ヴァネッサの伝言 故郷』 【第17回】 中條 てい シルヴィア・ガブリエルが一人でこそこそ動いている時は、何をする気なんだと不審に思ったもんだが… 「その言葉を聞いたら、きっとあの二人は喜ぶと思うけど、犠牲だなんて……そんなことファラーはちっとも感じてないよ。僕には何も言わないけど、こんな形で村の解放にかかわれたことがファラーには誇りなんだよ。僕にはそう見える」ラフィールの言葉にデュディエの視線が和らいだ。「それはそうと、随分大勢の人がいるけど、あれが全部お弟子さんなの?」「ああ、さっき俺の作業台を囲んでいた連中はこっちへ来てから弟子入りし…