ちょうど秋だったので紅葉の見える箱根の温泉宿を取った。硫黄の臭いがしてくると興奮しだして大騒ぎになった。
山も紅葉もぐるぐる回る道路も何もかも珍しがり大騒ぎする。もちろん世慣れた自分にはどうということはないけれどもそういう気分というのは伝染するものだろう。
「落ち着きましたかー。思い出しましたかあー」
「はあ、でもやましい旅行ではないです」
自分は呆けたまま言った。
「彼女たちはどうなりましたか?」
「ああ、逃げましたよー。無傷でぇー」
「なんだとお」
自分はゆっくりと立ち上がりながら言った。
「二人ともぴんぴんしてましてね。車がぶつかったとたんまあ、厄介ごとに巻き込まれるの察知してさっさっと逃げましたあー。タクシーと電車をー、上手く乗り継ぎ逃げ切りました。医学書も残らずもっていきましたねぇ」
「なんだとお、なんて卑怯な、恩知らずな」
「でも、家族にばれたら困るでしょー」
「まあそうですが」
「でも、親子ほど年の違う女の子二人連れて箱根の温泉宿に行くってどーです? まあその前にもやましいことはたくさんあるんじゃないですか?」
「確かにそうですが、ちょっと待って、まだ事態が把握できないのですが」
「全体的にですかぁー」
メタタアコが言った。
「はい」
「それでは説明しましょー」
ちゃっぷちゃっぷ言いながら歩きまわっている。相変わらずその姿はぼやけている。