謙ちゃんの家も新茶時期が間近になって忙しそうです。謙ちゃんがいなくなっておじ様の負担が相当重くなったのではないかと思い、訊いてみたら、「二年前までは、謙一なしでやってきたんだから、どうということはない」と言っていました。おじ様は、お国のために立派な息子を送り出したのだから、その分も頑張らなくてはいけないと、張り切っているようです。おじ様は本当に仕事好きですね。
我が家では、この春に妹が城北を卒業し、時田さんの紹介で田中屋さんに勤めることになりました。四月一日から食器売場で働いています。だらしのない妹なのでちゃんとできるか心配ですが、今のところは緊張した顔つきで毎日出かけています。やはり人間が成長するためには、環境が変わるということは大切なのかも知れません。もっとも妹の場合は環境が変わるといっても、謙ちゃんの場合とは比べものになりませんけれど。
これから偉い兵隊さんになるための勉強や訓練、大変だと思いますが、頑張って下さい。皆応援しています。
またお便りします。
草々
昭和十四年四月十日
谷川佐知子
杉井謙一様