ガラス越しに、生まれたばかりの赤ん坊が寝ている。

小見山翔、昭和六十三年九月、妻の実家がある静岡県のとある病院で生まれた。帝王切開であった。長女の時が帝王切開だったので、医者の勧めで今回も帝王切開にした。

帝王切開の良いところは誕生の日時が分かることだ。なので、陣痛が起こった時、慌てて妻の病院に駆けつける必要がない。出産の時間に併せて会社を休むことができるのだ。

出産当日の朝、病院に向かう準備をしていた時会社から電話が入った。プロジェクトリーダーのNさんからだった。内容は『プログラムの不具合が発見されたのですぐ会社に来て欲しい』とのことであった。今出発しなくては出産の時間に間に合わない。

病院は、新幹線に乗っても三時間は掛かる場所にある。どうするものかと思いあぐねたが、私の作成したプログラムも絡んでいるということなので、病院に行く荷物を持って会社に行くことにした。

病院へは一時間遅れで到着した。

プログラムの不具合が一時間足らずで発見されたので一時間程度ですんだ。一つの不具合を発見し修復するまで、何日も徹夜することがあるので今回は運が良かった。

病院に到着するとすぐ、妻の母親が私を病室まで案内してくれた。無事、手術は成功していた。しかし、まだ子供と母親は安静室におりガラス越しにしか子供を見ることができなかった。

ガラス越しに、生まれたばかりの赤ん坊が寝ている。私の子供だ。私の子供に間違いない。目元がそっくりである。私は何か興奮していた。