英二の態度に、ぼくはほんの少し彼の弱みを見たような気がした。
「何、女みたいなこと言ってるんだよ」
「えっ」と英二は、驚いたようにぼくを見た。
「ガキみてえなんだよ。こっちは忙しいんだ。お前らとはもう卒業だ」
「ガキ!」
「ああ、ガキさ」
英二はぼくの襟を掴み上げた。どうしてこんな臭いことしかできないのだろうか。恥ずかしくないのだろうか。
「お前、太郎に酷いことをしただろう」
「知らないよ」
「太郎がどんな気持ちでいたか、知ってるだろ」
「気持ち……ああ、あいつの幼稚な失恋のことか」
「何!」
英二は一層、ぼくの襟を締め付けた。
「エイジナンテ、ヤッツケチャエヨ。エイジナンテ、ヤッツケチャエヨ」
サムが耳元で囁いた。
「太郎がどうしたって? お前はそんなささいなことで、正義の味方ぶるつもりなのか」
「何言ってるんだ」
「ちょっと、太郎をからかってみたんだよ、それがどうかしたか」
「お前」
「英二、お前のケンカ、チクッてやろうか」
「何!」
「正義の味方の英二ちゃんの活躍をみんなに伝えてやるんだ。これでお前は英雄だ」
「イイゾ、イイゾ」
「浜高の奴だったよな。ウチの女子がからかわれているって……かっこいいところ、見せたかったんだよな。いい気になって、相手をボコボコにして、かっこよかったよな」
「イイゾ、イイゾ」
英二は腕を振り上げた。
「オモシロイコトニ、ナッテキタ」
「面白い、殴ってみろよ。今度は停学じゃすまないよな」
ぼくはそのとき水平に飛ばされていた。
「ククククク」
殴られながらも、ぼくは愉快だった。
「へえ、こんなことで怒るんだ」
「お前が、そんな奴だとは知らなかった」
英二はぼくの襟を掴み上げて立たせると、もう一度ぼくを殴った。