ぼくの顔色をうかがって言葉を選び、選んだ言葉さえ呑み込んでいたかつての典子の面影はどこにもなかった。自信に満ち、自分の選択を肯定する典子だけが、うるんだぼくの瞳のなかに映っていた。

部屋は静寂につつまれたままだった。残ったビールを無理やり呑み込み、ソファにもたれて天井を仰いだ。

一緒に暮らすあいだ、どうしてぼくは典子を受け入れることができなかったのだろう。どうして典子を突き放したりしたのだろう。どうしてそうしつづけたのだろう。

――いつものように。いや、いつも以上に出口のない後悔にぼくはおそわれた。が、悔やんだところで、もう元に戻すことなんてできないのだろう。離婚という厳粛な事実が残るのみで、それに対していまさらぼくは、いったい何の弁明が立てられようか。