ぼくの家族
「オレ、今日、会社やめてきた」
「まぁ、どうして急に?」
「カバンに入れてあったはずの書類がなくて、上司から怒鳴られた。明日から倉庫管理に行けと言われ、やけくそになって、自分からやめると言ったんだ」
「そうなの? まあいいか。あなたが決めたんだったら」
なぜか、おとんも、おかんも楽天家。これからどうするかについても、翌日には、ふたりの意見がすんなりまとまった。
そのころ、おかんは猫の救出活動に目覚めていて、猫カフェをはじめることにしたのだ。かわいそうな猫を引き取り、お客さんに見せて里親になってもらおうというもの。
コーヒーを飲みながら、ゆっくり猫ちゃんたちと時間をすごすらしい。どうなることか不安だけれど、おとんは、こんなふうに言っている。
「きっと、オハナが招き猫になってくれるさ」
オハナっていうのは、ぼくの名前。ハワイ語で家族という意味らしい。
ともあれ、わが家はこれまではゲンキが主役だった。でも猫カフェをやろうという話になってからは、ぼくが主役におどり出て、おとんとおかんからゲンキの話題がぷっつり消えた。
「えーっと、あなたの退職金が300万円。これまでのたくわえが、ざっと100万円。200万円でこの家の内装をやって、200万円で厨房その他をそろえたら、なんとかできそう。やるっきゃない」
それから家は大改装。もともと通りに面した住宅なので、立地条件はまあまあ。おとんは4か月間、他県のコーヒーショップで見習いをして腕をみがいた。
カウンターやテーブル席もできあがり、部屋のいたるところにキャットタワーも設置。四すみの高いところに猫通路も完備。