今夜もぼくは、母の小言を聞き流していた。この間のテストがさんざんであったこと、それにもましてぼくが寝てばかりいて怠惰であること、くどくどと小言は続いた。テスト前だって、付け焼刃かも知れないが、少しは徹夜をして頑張っている。これがぼくの実力なのだ。
ぼくより二つ年下の弟は、ぼくなんかと違って、地域でいちばんの進学校に通っていた。サッカーを始め、レギュラーにもなったそうだ。
父は、ぼくに声を掛けるでもなく、しかるのでもない。たぶんぼくのことなどあきらめているのだと思う。
ぼくは、自分の部屋の机に戻る。その部屋は二階の縁側を仕切ったものだ。英二から借りた、ビートルズの赤いジャケットのレコードをかける。テラスから覗いている長髪で髭面の彼らを、ぼくは胡散臭く不快に思い、好きになれない。しかしそんなことを英二たちには決して言わない。
父からもらった、家具調のステレオにレコードをかける。いつもぼくは唯一の楽しみである推理小説を開いて読む。音楽に興味もないので、レコードはいつの間にか終わり、アームは戻っている。
しかし、その日はレコードどころか、好きな小説さえも読み進むことができなかった。骨董屋の彼の眼が頭を離れなかった。暗い棚の上から見つめる、あの人形の眼…