第一章 道 程

【5】

その日、二限目を終えた宮神は、学食で定食の焼き魚をつつきながらサークル紹介のチラシを眺めていた。顔見知りになった同級生からも、サークルに入ったという話をちょくちょく聞く。やや気が急いていた。

「眉間に皺が寄っているなあ。また哲学のことを考えているのか?」

そう言われて顔を上げると、目の前にはいたずらっぽい笑みを浮かべている上杉がいた。両手で持っているトレイの上にのった白いご飯は、漫画のように山盛りになっている。きっと配膳の女性にねだったのだろう。上杉ならやりかねない。

「今度はなんだ? プラトンのイデア論かな?」

「期待を裏切って悪いけど、今はサークルのことを考えていたんだ。どこに入るかまだ決めてないんだ。上杉くんは?」

「くん付けはくすぐったいからやめろよ。上杉でいいよ」

「じゃあ、上杉は決まったか?」

 少し照れながらもわざとぞんざいな調子で話しかけると、上杉はブンブンと首を横に振った。

「サークルって入らなきゃダメなのか?」

「そんなこともないけど、入ったら楽しそうじゃないか」

「まあ、それもそうだな」

「いま、この二つのうちどっちにするか迷っているんだ」

宮神は上杉に二枚のチラシを差し出した。登山サークルと環境研究サークルのチラシだ。登山は以前からの趣味だったので、大学でより本格的に取り組み、各地の山々で高山植物を見て回ることに大いに興味がある。

一方で、宮神は環境研究サークルも気になっていた。一昨年にソ連のチェルノブイリ原発で未曾有の大事故が起こってから、世界的にも環境問題に対する関心は急速に高まっている。最近の新聞では、地球温暖化の記事を読む機会が増えているし、何よりそのような環境の変化が大好きな自然や蝶の生態系にどのような影響をもたらすのかを学んでみたいという思いもあった。

「登山に環境研究、か。地味というか、真面目だねえ」

「そうか?」

「いや、宮神のイメージにぴったりだ。よし、どっちにするか俺が決めてやるよ。この割り箸を割って、右側の面積が大きければ登山サークル、左側が大きければ環境研究サークルだ」

「ちょ、ちょっと待て。何だその決め方は? それに、きれいに真っ二つに割れたらどうする?」

「そんときゃまた考えるよ」

上杉はおもむろにトレイの上の割り箸を両手で持ち、「いくぞっ!」という掛け声とともにパキッと音を立てて割り、しげしげと眺めた。

「うん、右の方が大きい。宮神は登山サークルに入るべし!」

こんな適当な割り箸占いで入会するサークルを決めてもいいのだろうか。宮神は一瞬だけそう思ったが、結局は上杉の言うとおりにしようと心に決めた。バカ負けした、とでもいえばいいだろうか。

「そんな不安そうな顔をするなよ。よし、決めた。俺も登山サークルに入る。旅は道連れ、世は情けってやつだ」

宮神は天真爛漫な上杉の行動にすっかり魅了されていた。こんなにも型破りなやつが一緒なら、大好きな登山もより楽しくなるだろうと確信した。