外科は競争の厳しい世界なので外科医になることに不安はあったが長谷川先生の一言が後押しとなった。手術を見るのも好きなのだが、それはいつか自分がやる時がくると思いを馳せながら見るから楽しいのだ。
最先端の手術が見たくて、広い世界が見たくて、この病院を研修先に選んだのだ。今の僕にとって手術を見学したり、助手で手術に入ることが修行であれば、たまにさせてもらう執刀はご褒美だった。たまのチャンスで結果を出せなければ次のチャンスは遠のく厳しい世界であるため、執刀はプレッシャーもかかるが、それを上回る喜びがあった。
「違う違う。そこじゃなくて、もっと右側だよ」
「もう少し左手の鉗子を手前に引いて」
「そうじゃないんだよ」
「……」
「全然違う。交代」
2度目の執刀ではそれなりにうまくいったが、その後は悪戦苦闘の時期が続いた。完遂できて安心したわけでもないし奢りがあったわけでもない。
勉強はずっと続けているし、新しい知識や技術を日に日に身につけているはずだが、なかなか結果には現れなかった。安定した実力をつけるにはまだまだ時間が必要ということだ。