「ペルシダの宿屋――宿泊、欧州式朝食付き」。
その文字の下には小文字で標識が記載されていた。
「ペルシダ・ボスィリチチ未亡人 ベオグラード市管理局承認済み 一九〇一年創建」
アンカは、中央駅の前で止めた馬車でその宿屋まで送り届けてもらった。軽快な旅行用オーバーコートを着てハンドバッグを手にしていた。
その姿はまさに、たった今どこからかたどり着いたばかりのお嬢さん。彼女は太い装飾ひもを引っ張って、呼び鈴を鳴らした。
中年の門番がアンカのためにドアを開けてくれた。彼はハンドバッグを預かりロビーまで案内した。
そのロビーからは、グラウンドフロアの小さなダイニングルームの入口を見渡すことができた。そして木製階段を上って、そのフロアの一号室へと向かった。
その部屋では、未亡人のボスィリチチ夫人が日中は事務と受付の仕事に携わっていた。アンカは、プリビチェヴィチから予約が前日に手紙で送られていることを伝えた。
その部屋は、ポジャレヴァツ出身の若き女性音楽教授、ラヘラ・クロムバヘルの名前で予約されていた。三食付きの部屋が、何校ものベオグラードのギムナジウムで面接を終えるまで五日から一週間にわたって必要だった。
女主人はアンカに七号室をあてがった。二つの通りを見下ろすことができる角部屋だ。
翌朝、アンカはグリマルディを初めて眼にした。朝食を取るためにレストランに行こうとしてロビーまで降りてきた時に、レセプションのところで、その黒髪の怒りに満ちた顔の男を見た。
「ここには誰かイタリア語を話せる奴はいないのか?」
宿屋の女主人と門番が当惑して見つめる中、グリマルディは、自分の母語で文句を言っていた。
「予約しているんだぞ。ジョルジョ・ジョルダーニ。このわしは、ジョールジョ・ジョルダーニだ!」