第一章 カンタレラ! カンタレラ! 一九一九年六月
しかし、その電気自動車、ペルシダ・ボスィリチチ夫人の所有車が首都の燦然と照らされた広い通りを時速三十キロメートルを保ちながら走り抜けている間、アンカはついさっき殺して川の波の中に投棄したばかりの男のことを考えていた。バチカンが、その最も信頼できる殺し屋をベオグラードに送ってきた背景は何だろうか?
テスラカーは自分の住まいに向かって静かなスズカケの並木道を走っている。その時、ふと肩をすくめた。
事務所の人々は、彼女がその背景を知るべきではないと見なしていた。そして彼女の恒久の使命は、国家と王朝に対する危険を取り除くことであり、アンカはその使命を手際良く、寸分の間違いなく実行していた。
ブルーノ・グリマルディは、熟練した、油断のならない殺し屋だった。ジョルジョ・ジョルダーニという偽名を使ってベオグラードにやって来た。優れたイタリア燻製ハム生産者の代表として食品農産物フェアに参加する名目で、だ。
しかし、スーツケースの中には、香ばしくて美味しいサンプルとともに、自分の本当の稼業の道具が詰め込まれていた。それは様々なサイズの刃物のセット。投げつけたり、刺したり、切り取ったりするためのもの。その刃先に落ちてきた絹のスカーフを切断することができるほど鋭い。
グリマルディは危険で恐ろしい敵手であった。しかしながら、彼にはひとつの重大な弱みがあった。というのは、彼は男だった。一方、アンカ・ツキチは男を嫌っていた。