三階に降りる途中の階段で、小学低学年位の女の子が母親らしき人に「ねえねえ、お母さん、女子トイレに変な子が居るよ」という声を耳にした。
………ショーだ。ショーに違いない。私は三階の女子トイレに足早に向った。するとトイレの奥の方から「ひー、ひー」という甲高い声が聞こえてきた。
ショーだ。間違いなくショーの声だ。私は、トイレの中に居たおばさんに「うちの子供がトイレの中で遊んでいるようなので……」なんて訳も分からない言い訳し、奥の個室を覗く。
居た。ショーだ。ドアは開けたままだ。
この時は洋式トイレでなく和式タイプの物である。水のタンクは天井の近くに設置してある。そこからぶら下がっている、
鎖状の紐を引いて水を流すタイプ。ショーは、その紐を引いては水を流し、便器の中を流れている水を両手で掬ってはこぼしして遊んでいる。そんなことを何回も何回も繰り返している。
なんと、よく見ると、セーターからズボンまでびっしょりと、濡れネズミになっているではないか。私はトイレからショーを引き出そうと手を引っ張る。しかし抵抗してなかなか出てこない。何て頑固な奴だ。
「ショー君出てきなさい! ひどいよ!」
右手を高く挙げて叩く真似をする。だが、全然効き目がない。途方に暮れていると、間もなく妻がやってきて二人がかりでやっとの思いで、トイレからショーを連れ出すことに成功した。
暴れるショーを抱え上げ、休憩所まで連れて行く。妻は下着やズボン、上着等一式買って着替えさせなんとか事なきを得た。
帰りの車の中では妻と私は無言のまま。疲れきって言葉も出てこない。ショーはというとニコニコしながら車に乗っている。ショーは車が大好きなのだ。