私はある思いに駆られ、だんだん声が大きくなった。

「私を描いて! 貴方に絵に描いてもらって、永遠に綺麗な私を残して! お願い!」
「僕は人物画は描かないよ」
「嫌! 描いて!」と私はなかば叫ぶように懇願した。

私は直観的に思いついたのだ。結婚しないと決めているこのダンディな男に、生涯、自分の美しさを覚えておいて欲しい。そのためには彼の優れた才能に頼り、絵に描き残してもらうのがいいと。

「ヌードかい?」
「えぇ」と私は頷いた。
「わかった。……君は残酷だな」
「えっ?」
「僕も男なんだ。……ちょっと待っていてくれ」と言って、神矢は部屋を出て行った。

少しして、廊下の向こうでトイレを流す音がした。しばらくして、イーゼルとキャンバスを持った彼が戻って来た。

「どんなふうに描いて欲しいの?」
「貴方の好きなように」
「もっと豊満な体の方が描きやすいが、君は華奢だから、ゴヤの『裸のマハ』みたいにはいかないぞ」

と彼は冗談っぽく言った。

「ごめんなさい」と私は甘えた声であやまった。