二
法隆寺に着き、家に帰る道をトボトボと歩きだして、ふと立ち止まり、足下を見た。その時、曇っていた空の雲間からスッと光が差し、澄世の足下が照らされた。
四つ葉のクローバーが目にくっきりと飛び込んできた。えっ?と思い、しゃがんで見ると、道端にやっぱり四つ葉のクローバーがあった。澄世は摘んで手にとり、しっかりと持ち、立ち上がり、それを見つめながら歩いた。
そう言えば、Fさんに最後に贈ったのは、必死で探して見つけた四つ葉のクローバーを貼り付けた葉書だったのを思いだした。どうして、そうしたのかは、エッセイに四つ葉のクローバーの事を書いた事があったからだった。
「楯見君、頑張れよ!」
Fさんの声が、澄世の心に聞こえた。
S新聞社 関西版夕刊 エッセイ「あした元気にな~れ」 一九九八年三月十九日
「四つ葉のクローバー」
堀辰雄の『風立ちぬ』を久しぶりに読み直そうとページをめくっていたら、なにかがハラリと落ちた。四つ葉のクローバーだった。茶色に変色していて、さわればくずれてしまいそうだが、それでも四つの葉をちゃんととどめている。
そういえば、むかし四つ葉のクローバーさがしに夢中になっていたことがある。公園でさがしはじめ、気づいたら夕方になっていたこともあった。簡単にみつからないから、摘み取ったときの喜びは格別だった。家に持ち帰ると押し葉にして友だちにプレゼントしたりした。
「風立ちぬ。いざ生きめやも……」
堀辰雄の小説に四つ葉のクローバーをはさむなんていかにも少女っぽいな、と思いながら、それでも大事に元のページに戻した。
(佳)