「ええ? は、はい!」
禅は、大声で答えた。
賢一は、いくら練習しても、人より努力しても上手くはならなかった。一方の禅は、その持って生まれた運動神経の良さと抜群のセンスで、夏には三年生に混じってレギュラーになっていた。それは一年生としては異例だった。
冬をむかえたある日、部活を終えた帰り道で賢一が呟いた。
「禅、俺バスケットやめるよ……」
禅は驚いた顔で賢一を見た。
「え? 何言っているんだ、もうすぐ三年生が引退するし、これからじゃないか!」
そうはげます禅に賢一は力なく応えた。
「もういいんだ、もう……俺には才能が無い……」
それは禅という天才を、近くで目の当たりにしてきた賢一が一番感じた事だった。
禅は、その言葉を聞いて返す言葉が見つからなかった。
“人の努力は報われないのか?”
それは人一倍努力している賢一を、一番近くで見てきた禅だからこそ、賢一の苦しさが痛いほど分かっていたからだ。
「禅、ありがとう、俺をずっとかばってくれて……」
「賢一……」
「頑張れよ、お前には才能が有る。三年生も思っていると思うよ、お前にはかなわないって」
そう言って笑った賢一の顔を見て、禅は泣きたくなった。涙を堪える禅に賢一は気付かない振りをした。そして、賢一はバスケ部を去っていった。
賢一は思った。
“俺は勉強する、運動音痴で才能が無い俺には、努力するしか道はないんだ!”
そう自分に言い聞かせた。