初執刀
同期が2人いればどちらかが先に初執刀を経験し、どちらかは後になる。それは当然のことである。頭では分かっていても、東さんが執刀したと聞いた時は、とんでもなく差をつけられたような気がして、それ以来僕はちょっとした焦燥感にかられていた。
東さんが初執刀をした時、僕は別の手術に入っていたため、見学することはできなかった。僕と東さんは一緒に手術に入ることがほとんどない。手術のメンバーは部長クラスのベテラン、中堅、若手の3人で構成されることが多く、僕と東さんは共に若手に分類されるためだ。
東さんは普段の手術中、どのように振る舞っているのだろうか。やはり普段と変わらず堂々としているのだろうか。
それとも僕と一緒でオドオドしているのだろうか。そして、初執刀はどこまで自分でできたのだろうか、最後まで上の先生に取り上げられずに執刀できたのだろうか。怒られたりもしたのだろうか――。
東さんが初執刀をして以来、気を抜くとそんなことばかり考えていたが、なるべく気にしないことにした。僕にも近いうちに初執刀の機会が訪れる。まずは自分のことに集中しなければいけない。
腹腔鏡手術は録画してビデオに残せるため、後で繰り返し観て復習できる。僕は自分が参加した手術のビデオはなるべくその日のうちに観るようにしていた。