そして週末は次の週の術式のビデオを観て予習していた。近いうちに執刀する日がくる。そう思うと、ビデオ学習にも力が入った。

普段はビデオを2倍速で流してポイントとなるところだけを等倍速でじっくり観る。そうしないと、とても全ての手術を復習することはできない。

しかし、この週末は、過去の腹腔鏡下胆嚢摘出術の中で典型的なものを選んで、最初から最後まで等倍速で観た。途中、分からないところがあれば止めては戻してを何度も繰り返しながら細かく手順を確認した。いつチャンスがきてもいいように準備してきた。

「タイムアウトをお願いします」
「はい。お名前は、えっと、谷真一さんです。えー、胆嚢結石症に対して、腹腔鏡下胆嚢摘出術を行います……」

タイムアウトとは、手術や処置などの前に行う確認作業のことである。手術前に患者さんの名前や術式をその場にいるスタッフ全員で最終確認し、間違いのないようにする。術前以外にも麻酔前や退室前など、あらゆる場面でタイムアウトは行われる。

「先生、手術時間は?」
「1時間30分くらいです」
「出血量は?」
「少量です。よろしくお願いします」
「お願いします」
「お願いします」

外回りの看護師さんに先導されながらなんとかタイムアウトを終える。

「メスください」

いよいよ、執刀が始まる。

「ではお願いします」
「お願いします」
「お願いします」

最初のメスが患者さんの皮膚に入る直前にもう一度、挨拶するのが慣習である。みんなが僕の声を追いかけてきて、自分が先頭に立っていることを実感する。助手の時とは全く違った緊張感があり、胸が高鳴る。