プロローグ
お酒を飲むことで、落ち着くことができる。やるべきことがはっきりしてくる。
彼は電話機のところに行き、受話器を取り、交換室の女性オペレーターに、彼の助手の女性の電話番号につなぐことを依頼した。彼は眼を閉じて、回線の向こう側で電話のベルが鳴るのを聞く。
「マグダですか? 夜分遅く電話して、ごめんなさい」
「プランク先生ですか?」
眠たそうな女性の声が聞こえた。
「いかがなされましたか?」
「マグダ、覚えているかい? 私が数か月前にセルビアのベオグラード大学から、連続講演の招待をもらったことを」
わずかの沈黙、それから、
「ええそうです。覚えていますよ。私が間違っていないのなら、先生はおっしゃられましたね。今年のご自分の旅行を計画し終わるまでは、先方に回答しないようにと。明朝、何と答えたらよろしいでしょうか」
「そうだ。そうだったよ、マグダ。電報でこう回答してください。講演スケジュールを設定可能なのは、えーと、六月半ばだな。それだと、講義や他の細かいことを準備するにも十分な時間的余裕ができる」