第二章 ゼロからのスタート

ピンチに秘められたチャンス

倒産した取引先の会社の隣で、大きな工場の建設が始まりました。TOTOの中津工場です。「こんな大きな会社と取引ができたらいいなあ」と私は思っていました。

債権者会議の行き帰りに、TOTOの工場の前を何度も行ったり来たりしていました。正門の前で、入ろうか、入るまいかと迷いながらも、一か八かと思い、守衛所に行き、「工務課に通してください」と頼みました。

守衛の人は工務課に電話を入れてくださり、案内してくれました。工務課に入り、担当者に名刺を渡し、「私は吉富町で小さな鉄工所をしています。弊社にできることがありましたら、何でもいいですから仕事をさせてください」とお願いしました。

話は聞いてくれましたが、返事はよくありません。いきなりの訪問だったので、だめでもともとの思いでした。こんな大きな会社が飛び込みで来た業者に仕事を出してくれるほど、世の中甘いもんじゃないと自分に言い聞かせました。

それから、半年ほど経って、TOTOから電話がかかってきました。「見積もりをお願いしたい」とのことで、喜び勇んで工務課に行きました。祈るような思いで縞鋼板の階段を一段一段上がりました。

担当者と名刺を交換し、丁寧に挨拶しました。担当者は「この製品を見積もってもらいたいのですが、おたくでできますか」と図面を差し出しました。