アリとキリギリス
将太は、しばらく剛史を睨んでいた。
“この金魚の糞が!”
将太は剛史が好きじゃなかった。
“弱いくせに、俺の事を利用して粋がっている。こいつだけは好きになれない!”
自分の前ではペコペコしているくせに、知らない所では悪口を言っている。そんな剛史に将太は愛想が尽きていた。
“それでも仲間だから仕方ない……”
そう自分に言い聞かせた。
将太は剛史を突き飛ばすと、倒れている禅の前にしゃがみ込んだ。
「お前、いい根性しているな」
そう言って笑うと振り返り、仲間を見回した。
「行くぞ!」
将太は立ち上がると歩き出した。他の仲間も慌てて後に付いて行った。将太は、腹を押さえてかがんでいる賢一を見ると言った。
「お前、いい友達を持ったな」
それはまるで禅と賢一の関係を、うらやむような言い方だった。実際にうらやましかった。将太は自分がお山の大将で、友達はいないと思っていたからだ。
“俺はみんなに恐れられているだけだ。自分が困った時に来る奴らしかいない”
そして呟いた。
「俺がやられたら、この中に俺を助けるヤツがいるだろうか?」
それを聞いたのは賢一だけだった。
立ち去って行く将太の後を、不満げな顔をした剛史が賢一を睨みながら歩いて行った。
「禅、大丈夫か?」
賢一は、そう言うと腹を押さえながら、倒れている禅の元へ歩み寄った。
「だ、大丈夫……」
「鼻血が出ているよ!」
「そうか?」
禅は、手で鼻血を拭いた。
「ごめん……」
「何言っているんだ、俺たち友達だろ」
「そうだね、ありがとう」
二人は立ち上がると、教室に向かって行った。禅が呟いた。
「しかし、将太君は強いな……」
「当たり前だよ、それを分かっていて殴るんだからな」
「いや、どうせやられるなら試してみたかったんだよ」
賢一は呆れた顔で禅を見つめた。
「お前、助けに来たのか? やられに来たのか?」