パン屋のポロン
ぼくはノラ猫。お母さんは、ぼくたち3匹を庭のプランターの中で産んで、その後すぐに育児放棄したんだ。その様子をずっと見ていたおばちゃんが、ぼくたちを保護してくれた。
その時のぼくの体重は110グラム。お兄ちゃんは140グラム、お姉ちゃんは130グラムだった。みんなへその緒もついてたし、まだ目も開いてなかった。
おばちゃんは、急いでぼくたちに子猫用のミルクを買ってきた。おじちゃんは、哺乳瓶で2時間おきに温めたミルクを飲ませてくれた。
でも、それまでぼく以上に元気だったお兄ちゃんが死んで、つぎにお姉ちゃんも死んでしまった。とうとうぼく1匹。
あとで聞いた話だけど、おじちゃんは、少しずつしか出ないミルクを、ゆっくりやるもんだから、手の関節を痛めてしまったらしい。それと寒い時だったから、段ボール箱の中には温かいお湯の入ったペットボトルやバスタオルが置かれていたんだ。
お兄ちゃんやお姉ちゃんが死んだ原因は、結局わからないままだった。おじちゃんも、おばちゃんも、生き残ったぼくを、神様からの授かり物だと言って大切に育ててくれたんだ。
ぼくの家はパン屋さん。お店の名前は“西原村のパン屋”。のんびりとした田舎町のかわいいお店だ。
お店の中は、いつもメロンパンのいいにおいがする。おじちゃんも、おばちゃんも、毎日朝から晩まで、いっしょうけんめい働いている。近所の人から、「あんたげんパン(お宅のパン)は、たいぎゃ(大変)うまかばい(おいしい)!」と言われると、ぼくもうれしくなる。