第二章 ゼロからのスタート
父の跡を継ぐ
私は電話の取り次ぎをしてくれたおばさんに恩返しができていません。お孫さんが六十代ですし、おそらく当時のお年からすれば、もう亡くなられていると思われます。
おばさんに恩返しができなかった分、『ペイ・フォワード』のように、地域貢献や社会貢献など何らかの形で他の人にお返しができるように努力したいと思っています。その恩返しが波動を起こしていけば、世の中にもっとよい連鎖が生じるのではないかと思います。
対岸の漁師町である小祝(こいわい)の組合長さんもよく漁船の修理に来ていました。私は小さいころから可愛がってもらいましたので、「こうちゃんじいじい」と呼んでいました。
こうちゃんじいじいは「みのる、お前が鉄工所をするんなら、漁師相手ばかりじゃつまらんど。俺が紹介するから、その人を訪ねてみよ。その人はなあ、電話一本で商売しとる人だぞ」と、中津に個人で特殊鋼の鋼材を扱っている商店の親父さんを紹介してくれました。
そしてA工機というホウロウタンクを作っている工場の仕事をさせていただくことになりました。新しい取引先ができて家族みんなで喜んでいました。
材料はステンレスで、部品を旋盤加工して納入するのです。50㏄のバイクで、カットした鋼材を五、六本積むと、後ろが重いためハンドルがふらつくのですが、仕事をいただけることに喜びを感じていました。