セットリストNo.2(第二章)
18 One More Night–Phil Collins
「今夜は、どうする?」翔一が訊く、
「うん、今日は帰る。明日は、お仕事があるし」と、香子が答える。
「そっか、そうだね。仕事は大事だからね。今はさぁ俺が、夜の仕事してるから、2人の時間があまりとれないけど、ずーっとこのままってわけじゃないから」
「それってDJを辞めるってこと?」
彼女は驚いて訊いた。
「いずれは、そういうときも来るだろうと思ってるよ」
「もし、DJを辞めたら次はどんな仕事をしようと思ってるの?」
「あまり、はっきりさせてないんだけど、やっぱり、今までで一番長く続けてこれた『DJ』っていう仕事から、受け取った知識や技術が生かせれば。そう、例えばラジオ局や、テレビ局なんかの放送業界とか、レコードを作る側とか、映画音楽の制作なんかにたずさわれればなぁ、と思ってるよ」
漠然としているが、これは彼の本心。
「そうよねぇ、DJのお仕事ってある程度若さがないとできないなって、私も思うわ」
「どんなところが?」
翔一は、香子の意外な言葉の本質を、質問したくなった。
「だって、翔ちゃんのお仕事を、何度もすぐそばで見てきたから、解るの。貴方は、本当にダンスが好きな人だから、ブースの中でDJするだけじゃ済まないもの、他のお店のDJ達では、真似できないスタイルよ。頭から体のすみずみまで全部使って、ゲストたちがダンスをしやすい環境を造っていると思うの、お客さんの立場で踊りに行っていたら、黙々と何のアクションもなくDJしてもらってても、あんまり踊る気にならないけど、翔ちゃんなんかは、いっつもマジで『皆踊っちゃえよ、俺も踊ってるゼ』っていう感じで2、3時間後には汗びっしょりになってて、それが一晩に最低でも2回は、あるでしょう? 年を取ったら、きびしくなると思うよ」
香子は、翔一の仕事に対して、ずっと持っていた感想を言った。
「六本木のDJってさぁ、一種の花形商売だから、俺もやりたいなって思ってる奴が、たっくさんいるわけ。だから、年寄りが上のほうでつっかえてると、やれる時期を逃してしまう若い人間たちが、かわいそうでしょ。できれば、DJやってるときに備わった何かで、さらに才能を開花させていくべきだと思うんだよね。さっき言っていたラジオとかテレビなんかもそうだし映画を作りたいって言ってる奴もいるし、小説書くって言ってるのもいるからね」