セットリストNo.2(第二章)
17 Back & Forth – Cameo
「翔ちゃん、翔ちゃん、ベイサイドクラブのミックさんから電話よ、起きて」
ベッドで、寝ている翔一の肩を香子が、ゆすって受話器を耳もとにあてた。
「もしもし」まだ今ひとつ、はっきりしない寝起きの状態で、目をつぶったまま、やっと言葉が出たという感じ。
「あ、ミックだけど寝てるところ悪いね」一応、詫びてはいるが、声のトーンからは、あまりそれを感じ取ることはできない。
「用は、何ですか」翔一は、少し、機嫌悪そうに答えた。
「このあいだYOUが、ベイサイドに来たときに話した『あの件』のことなんだけど」
「いくつ?」翔一は香子がすでに寝室からキッチンへ行ったこと、それは気配で感じていた。
でも話の内容は、できるだけ短い単語で済ます。
たとえ、聞かれていていても何の話なのか解らない、いつも、そういう話しかたをする。
「今回は、500グラムお願いしたいんだけどいつ頃になるか、その辺を聞いときたいんだけどー」ミックが重たい言葉を使うのを聞いたことがない、いつも軽い。
「うーん、すぐには答えられないなぁ、俺の『先(1つ前の段階のディーラー、この場合は新二)』の人間に、聞いてみないとなんとも言えないなぁ」翔一は、あくびをかみ殺しながら言った。
「じゃあ、プライスと日にち解ったら、電話ちょうだい」
「うん、解ったよーそれじゃあね」翔一は、機嫌悪げに受話器を置いて、ベッドからすべり下り、テーブルの上にあったマルボロを1本、口にくわえて火をつけた。
「DJって夜遅くまでお仕事してて、寝るの遅いのに起きるのは早いのね」キッチンにあるダイニングテーブルで、コーヒーをたてている香子が言った。
サイフォンを竹べらで、あおる音が聞こえ、コーヒーの香りがする。
「ねぇ、今何時なの?」翔一が訊く。
「まだ、お昼を過ぎたばっかりよ」香子が答えた。
「えーっ、マジでー、ふーぅ」と最後にタバコの煙を吐いてシャワーを浴びにいく。
翔一は今抱えている自分の状況を、あわせて考えてみると、彼女を巻き込んではいけない問題もある。
本格的に一緒に暮らすのは、適切じゃない。そう思っているのだが。