第二章 釣りもアレも人間は新奇好き
「少女クジラ」と水冷式の話
落語に「鯨(くじら)を釣る」と言うのがある。途方もない大法螺吹(おおほらふ)きの話である。
我ら釣り師も、常識を超えた大仕掛けを見ると、
「クジラでも釣る気か」と言ったりする。
元よりクジラは魚ではない。れっきとした哺乳動物で、繁殖も魚のような卵生や卵胎生ではない。メスはオスと交尾して、身ごもり、妊娠期間は種類によって異なるが、一年ないしそれ以上である。子どもは母乳で育てる。最大級のシロナガスクジラは全長三五メートルにもなり、当然地球最大の哺乳動物である。
さればクジラの持ち物、まことにもって興味シンシン。
実は吾輩、クジラのお道具をこれまでに三回も拝見する機会に恵まれた。
最初に見たのは二〇代の頃、和歌山・太地のくじらの博物館であった。
それはマンモスの牙を思わせる、見事に反り返った一物の剥製(はくせい)であった。長さは人の体長ほどもあったが、四五年も前のことで、残念ながらメスの器官を見た記憶がない。
二度目は大阪の万博記念公園のクジラ博覧会であった。オス、メス何れもホルマリン漬けにしてあったが、オスのソレは一・五メートル近くあり、メスのそれは残念ながら文章にするほど鮮明ではなかった。
当時まだ二〇代半ばの独身で、当日はデートで行った記憶がある。
生意気な顔をした青年と、屁もこかないほどのすまし顔の彼女とが、まあ博覧会場を歩いていた訳である。
三度目は、何かのアトラクションの「鯨の解体ショー」だった。
冷凍した六メートルほどのゴンドウクジラ一頭を、展示した後で解体し、即売するイベントであった。
クジラは漆黒(しっこく)で、表面はコードバン(最高級の馬革)のように弾力がありツルツルとして鈍(にぶ)く光っていた。
会場の担当者が知り合いであったから、見学者の途切れた時に、
「朕茂チャン、このクジラ、メスやで」と証拠(しょうこ)の部分を示してくれた。
腹側の下の部分を両手でぐっと開いたのだ。
「なんと」オイラは思わず息をのんだ。
「ウーン」驚きというより感動である。ナントそっくりなのである。
同じ哺乳動物とはいえ、我らは霊長類の中の人類である。片や霊長類にも劣らぬ知能や感情を持つともいわれるクジラは、海の中でオキアミやイカを食っている、足もなければ股もない、陸にさえ上がれない海生哺乳動物である。
それが我らの相方とそっくりなソレを持っている。逆三角形のヘアーは生えていないが、表皮全体が真っ黒で、その内側は薄いピンク色だった。
ふっくらとした丘、その内側に楚々とした連山があり、出会ったところに見事なマメもあった。玉門はしっかりと閉じて美しく見える。
「これは少女クジラではあるまいか」、吾輩はいたく感動した。
その後、図書館に行って調べたところ、果たして、一八二七年オーステンデ港東方に打ち上げられたクジラの図解図にメスクジラの外性器の写生図が掲載されていた。