Chapter5 対立
かくして、一泊二日の大冒険を経て、探検隊は笹見平に帰り着いた。留守番の連中が目を丸くしたのは言うまでもない。なんたって、探検隊が本物の縄文人を連れてきたのである。
ユヒトらは好奇の視線にさらされた。たくましい肉体に浅黒い肌。引き締まった目元にまとめられた長髪。麻の服をまとい、手に手に武器を持っている。まるで絵に描いたような野生児である。
「彼はユヒト。今井村の若者のリーダーだよ。こっちがスソノ。あっちがイニギ……」
林は縄文の若者たちを笹見平のメンバーに紹介した。
ユヒトははにかんだ笑みを浮かべ「オツカレ、サマ」と挨拶した。ドッと笑いが起きた。
留守番組の主だったメンバーも名を名乗り、握手を交わした。岩崎と川田は嬉々としていた。泉と木崎は、露出の多い縄文の若者たちを前に、恥ずかしそうにした。早坂と沼田は複雑な表情で、おそるおそる握手をした。
それから小一時間ほどかけて、林はユヒトらに笹見平の敷地内を見せて回った。ユヒトらはうなずいたり、彼らの言語で何か言ったり、興味津々の様子である。特に現代の物を見た時の驚きは大きかった。プラスチックや鉄など、つるつるした材質の物は、関心の的である。
ひと回りして昼時分となり、林はユヒトらを食事に誘った。しかし彼らは「もう帰らねば」とジェスチャーした。帰り道で猟や採取をするつもりらしい。そうしなければ、村の人々が腹を減らしてしまうのだそうだ。
「そうか。そもそも一日三食、朝昼晩ってルールも無いんだよな」
盛江は自分で言って納得した。
やがて縄文の若者たちは帰っていった。
その夜、探検隊へのねぎらいもそこそこに、早坂と沼田が早速異議をぶち上げた。
内容は、もちろん、縄文人と付き合うことの是非である。
まずは沼田が例を立てて訴えた。
「みんな、アボリジニの話を知ってるかね? オーストラリアの原住民であるアボリジニは、上陸したヨーロッパ人によって大量虐殺されたと言われているけど、ホントは持ち込まれた病原菌で死んだという。
オーストラリアはどの大陸からも遠く離れているから、ヨーロッパ人が持ち込んだ菌や病気に対して、免疫が無かったんだよ。これは今の笹見平と今井村の間にも言える。どんなに気心が知れたとしても、一緒にいたら病気になってしまうかもしれない」
「それはうかつだった」
砂川は青い顔をし、胸やのどに手をやり、異状はないか確かめた。探検隊にいた他の面々も同じような仕草をする。
「一晩一緒にいて何の変化も無いんだから、大丈夫なんじゃない?」
林だけが他人事のようにそう言った。
「何を言ってるんだ。お前は!」早坂は声を荒げた。「俺たちが死ぬ分には何の害もない。だが、これがきっかけで縄文人が死んでみろ。歴史が変わってしまう。みんな死んでしまえば現代まで日本人が保たれないかもしれない。そうなると、俺たちが帰る現代も無くなる」
全員、色を失った。