第1作『ブルーストッキング・ガールズ』
紅林紀子は、この四人の少女にとって憧れの教師だった。東京の高等女学校で学んだ彼女は、いつも、この街ではまだ珍しい洋服で教壇に立っていた。英語教師の彼女が読むリーダーは、音楽のように美しかった。
「そうよ。こんな町に、紅林先生は似合わない。せせこましくて、田舎くさくて、前時代的でさ」
晴は叫んだ。
「未だに、ちょんまげ結ってる人がいるのよ」
やっと喜久は座布団に腰を落ち着けた。
「知ってる……学校の近くの……」
美津も街の話題には乗ってくる。
「そう、校門の前の」多佳が答えた。
「何て言ったっけ……看板の字……難しくって」
「朱印堂とかいう骨董屋。……御維新前は、藩の重役だったらしいわよ」
喜久が自慢げに言った。晴はまた一口きんつばを放り込んだ。
「いやよ、あのじいさん、すぐ睨むのよ。この前なんか、おテイちゃんとおしゃべりしながら……でもね、そんな大きな声じゃないのよ……朱印堂の前を通ったらさ、怖い顔をして家から飛び出してきてさ、『静かにせんか』って、怒鳴るのよ。おテイちゃんそれで、大声で泣き出しちゃったのよ」
「うん、私も歌を唄ってたら……」
多佳がまた割って入る。