「なんで、歌なんて唄うのよ」
「だって、ポカポカ温かで……なんかウキウキしちゃって……」
「もー」
「『往来で唄うな! はしたない娘だ。親の顔が見てみたい』って、息も荒げてさ。それこそ鬼みたいな顔してさ」
多佳が怒って言う。
「封建的よね。もう一つちょうだい」
晴の口の中には、きんつばが残っている。
「よく食べるのね。もう三つ目よ」
美津もあきれて吹き出した。
「乙女はお腹がすくものよ」
「門屋は、私たちの救いの神ね。……でも門屋のおじいさんも、頑固そうな顔をしているわよね。いつも黙ってるし」
「あの目の鋭さは、朱印堂のおじいさんといい勝負よね」
「うん、うん」
「やっぱ、あの門屋も、元はお侍だったのかな」
口いっぱいにして晴が言う。
「うん、封建的よね」
喜久は静かに言った。
「いやだ! いやだ! こんな町なんて!」
晴が駄々っ子のようにぐずる。
「いやだー、東京に行きたい!」
多佳が叫ぶ。
「私も東京へ行きたーい」
晴が叫ぶ。
「私も行きたーい」
美津は大声で叫んだ。三人は美津を見た。それまでずっと黙っていた喜久は、声を出して笑ってしまった。
美津も笑った。四人は笑い転げた。