先にギブアップして休んでいた香子の元へ、彼が戻ってきたのは、ダンスフロアーに、スローテンポのラヴバラードが、流れたときだった。
「すごい汗」
香子は、自分のポケットからハンカチを取りだして、翔一の顔に、流れる無数の、玉汗を拭き払っている。あれほどいたゲスト達も、ほとんどがダンスフロアーから去り、お店の中にはクリアー(掃除)用のライトが、つきはじめている。
「ねーねー、まだ帰んないでしょう、久しぶりに来たんだからアッチで少し遊んでかない?」
ミックが、2人のテーブルに近づきながら言った。
「俺も、後からいくからさぁ、待っててよ」
今、ミックがアッチと言ったその場所。このベイサイドクラブは、とても大きな倉庫を改造して造られた。
マジで、ホントでっかいスペースを持っている場所。ダンスフロアーは、その半分を使っている。
そして、もう半分のスペースには、ポケットビリヤードの台が20以上配置されたいわゆるプール・バーになっている。ミックの言った『アッチで、あそぼう』ということは、ビリヤードをしようよ。そう言っていることになる。
「となりに移って何か飲もうよ。喉がカラカラ」
次から次へと噴き出す汗を袖で払いながら翔一は言った。プール・バーに行くためには、1度ダンスフロアーから外へ出なければならない。外は、うっすらと白み始め、パーキングにあれだけあったゲストの車もだいぶ少なくなっていた。
『なんか、ほかにフクミがありそうだったなぁ』
そんな気がした。