セットリストNo.2(第二章)
14 White Line–Melle Mel
香子と出逢ったあの夜から数日経ったある日、麻布十番にある貝料理専門のレストラン、シェル・ガーデンズに、翔一と新二の姿があった。食事が終わった彼らの座るテーブルには、2つのコーヒーカップが置かれた。
「このあいだ、翔ちゃんが俺んちに来たときに言った相談のことなんだけど……」
新二は、メンソールのマルボロに火を点けながら話をきり出した。
「俺が今、取引している親・ディーラーから振られた話なんだけどね。今後は、クサだけじゃなくてアップ系も扱ってみないか? って言われてるんだけどさ、返事は翔ちゃんの意見を聞いてからじゃないと出来ないことだから、待ってもらってるんだ。もちろんプライスも、他のどこで引くより安く抑えて出してやるって言ってるんだよ、どうする?」
ここまで言って新二は、メンソールの煙を大きく吸い込み、コーヒーの入ったカップを口もとへ運んだ。
「扱うものは?」
翔一は、短く訊いた。
「Sとコカ」
新二は、最短文字で答える。Sと呼ばれたものは、スピードの頭文字を取ったもので、いわゆるシャブ(覚せい剤)のこと。コカとは、コカインのことだ。
翔一は考えていた。Sやコカインを扱った経験が、ない訳じゃぁない。自分で使ったことも、もちろんある。