「俺は、勘違いを、していた。君の涙の意味を、何も分かっていなかった。君を守りたいと言いながら、俺は結局、自分の弱さを隠すことばかり、考えていたんだ」
「雅彦さん……」
「俺はな、よし子。強い夫で、いたかったんだ。弱った姿を、君に見せたくなかった。子どもの頃から父に『男は弱音を吐くな』と育てられて……情けない姿を見せたら、君に愛想を尽かされると、本気でそう思っていた。倒れたことが、悔しくて、恥ずかしくて、たまらなかった」
よし子は、首を横に振った。涙でぐしゃぐしゃの顔で、何度も、首を振った。
「弱くても、いいの。一緒に怖がって、一緒に泣いて、一緒に乗り越えればいいの。夫婦って、そういうものでしょう。強いあなたも、弱いあなたも、ぜんぶ、私のものなのよ」
二人は、正志の写真の前で、長いあいだ、抱き合って泣いた。写真の中の正志は、やっぱり穏やかに、二人を見守っていた。
(ずっと、こうして話せばよかった。怖いと、ただ怖いと、そう言えばよかった。意地も、強がりも、夫婦の間には、何ひとつ、要らなかったのに)
やがて雅彦が、ぽつりと言った。
「教えてくれ、よし子。これから俺は、どうすればいい」
「……一緒に、ゆっくり治しましょう。二人で。もう、一人で抱え込まないで。私、あなたとおばあちゃんになるまで、ずっと、ずっと一緒にいたいの」
窓の外が、少しずつ、白んでいた。長い夜が明けて、二人の朝が、もう一度、始まろうとしていた。
「月川みのり・新作公開記念!『愛され未亡人の、湯けむり恋物語』ピックアップ」
次回更新は11月4日(水)、17時の予定です。
月川みのり氏・最新作も11月からGLOで連載開始予定! お楽しみに!
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2人で露天風呂の最中、夫が突然「言いたいことがある」と姿勢を正して向き直ってきた。「俺が倒れた時、実は…」
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