2 高校生活
高校に上がって一年生の時は前と隣に落第生が陣取り、環境的には最悪だった。歌手の田代みどりのファンで、大手町のサンケイホールに彼女が出演した坂本九主演の和製ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』を友人と見に行ったことが楽しい思い出となっている。
孤独な青春の相手は映画鑑賞とラジオ放送だった。池袋には「人生坐」という名画座があり、公衆浴場の脱衣場に貼り出す映画広告についてくるビラ下券で、OK牧場の決闘やシェーン、リオ・ブラボー等々映画を見まくっていた。その跡地には信用金庫の本店が陣取ってしまった。「文化の街」を標榜するならば是非復興してほしいものだ。
池袋駅東口近くの映画館は今でも一つ一つ記憶している。端からテアトル池袋(東宝映画)・その地下にテアトルダイヤ、向かいに洋画上映の池袋劇場・地下に池袋東宝、少し行くと三階建ての映画館をいつも満員にした時代劇全盛の池袋東映、その向かいは勝新の座頭市や市川雷蔵の眠狂四郎が人気の池袋大映。
明治通りに面しては池袋東急・日勝館・日勝地下・日勝文化、裏に回って人生坐の姉妹館で小説家の三角寛(みすみかん)が経営した文芸坐(現新文芸坐)・文芸地下など。石原裕次郎と吉永小百合の日活はどこで上映していたか。西口はテリトリー外であまり出かけなかった。
当時のことで一つ印象深く残っているのは、上映館(テアトル池袋)に掲出された有吉佐和子原作『恍惚の人』の宣伝看板だった。“恍惚”というのはまだ馴染みのない言葉だった。近年こそ「認知症」が一般に使われるようになったが、ぼけ老人と揶揄された時代に、このテーマを取り上げた作家の先見性を見た。
大変のびやかな時代で、受験勉強のかたわら心の安らぎを得たのは、ラジオから流れる洋楽と「今日の話は昨日の続き、今日の続きはまた明日」という軽快なテンポで始まる前武(前田武彦)さんたちの番組や、カメ(亀渕昭信)さんのパーソナリティで人気のオールナイトニッポンといった放送だった。谷間に三つの鐘が鳴る、ナット・キング・コール、パット・ブーンの音楽に癒やされる日々だった。
通学路は都電の32番線(今は荒川線と名称が変わり、終点が三ノ輪橋まで延伸)の日ノ出町(現在の東池袋四丁目)から早稲田へ出るまでのルートだったが、時間に余裕のある時は歩いて雑司ケ谷霊園の「いちょう通り」を通り抜けて日本女子大の脇の豊坂を下って早稲田まで歩いていった。かぐや姫の『神田川』の舞台である。
高校二年になって進路分けが行われ、一学期の中間テストでクラス一番になって浮かれて油断してしまったのが祟って、大学受験に失敗。目の前の大学に進むのに一年余計に掛かってしまった。
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