Chapter5 対立

一行は再び川を渡り、予定のコースに戻った。

林は先頭を行く盛江の背中を見つめて考えた。

袋倉駅の件は、本当ならすぐにでも笹見平のみんなに伝えたいくらいだった。早坂が知ったら何と言うだろう、沼田ならどんな風に考えるだろう。何か大きな気付きが生まれるに違いない。

正直、駅周辺についてもっと調べてみたかった。藪を探せば現代人が生存して野宿しているかもしれないし、便利な道具や食料が見つかるかもしれない。藪だらけの周辺環境や、いるかどうかも分からない縄文人の集落を探るよりは、ずっと有意義な気がする。

タイムスリップの痕跡は、砂川が言っていたように、いずれ風化してしまうだろう。どこがどこだか分からなくなれば、それは「現代の喪失」であり、つまりは故郷を失うことになりそうで、そら恐ろしい気がした。

吾妻川へ北から注ぐ支流は、丘の上からジグザグに流れていた。
探検隊は上流に向かって川岸をさかのぼっていった。足元は苔むした岩場で滑りやすい。探検隊は左右に茂る木の枝や蔓を掴み、慎重に前へ進んでいった。

「おい、見ろ」
盛江が声を殺して前を促した。

林は盛江の肩越しに顔を突き出し、幾重にも生い茂る木々の幹や枝の向こうに目を凝らした。

「あっ」

ひらけた空間に点々置かれた茶色の三角形――それが柴で編まれた竪穴式住居であることは明らかだった。大きさは笹見平のレプリカよりちょっと小さい。しかし数は多い。五つ、六つ、七つ……点を打ったようにずっと先まで続いている。

現代にいた際、今井東平遺跡を訪れた時にはこんなものは無かった。つまり、笹見平のように領域ごとタイムスリップして存在しているのではない――ということは、これは本物なのか?

戸惑う林の目に新奇なものが映り込んだ。竪穴式住居の中から丸裸の子どもらが飛び出したのだ。五人、六人……どんどん出てくる。踊るように足踏みをし、はしゃぎ、笑い声を立てている。最後に、竪穴式住居からもう一人、子どもたちより少し年長らしい女の子があらわれた。