手術室は戦場
ガウンに着替えるといよいよ手術が始まる。
「オイフ」
外科で使用するオイフは、手術する部分だけが露出するようにできている。手術で扱う部分は消毒しているため清潔であり、その周りをやはり清潔なオイフで覆うことで、手術に入る外科医および看護師は手術中にそれらに触れても不潔にならずに済む。こうして術野の汚染を予防する。
「ライトハンドル」
「電気メスのコード」
「吸引チューブ」
清潔な装備に注意を払ったら、今度は手術器具の配置である。手術をスムーズに進めるために、とても重要な作業だ。今は「腹腔鏡手術」が主流である。電気メス、送水チューブ、吸引チューブ、カメラ、凝固切開装置、気腹チューブ……。腹腔鏡手術では使用する器具が多いため、手術がしやすいように器具を配置しなければならない。
「それは後」
「これがここにあったら邪魔になるんだよ」
僕も手伝おうとするが、なかなかうまくいかない。
「これはおれがやっているんだから別のことをやって」
とりあえず手伝おうとするが、結局邪魔になる。かといって、ほかに何をすべきか分からない。やはりここでも難民になってしまう。
「ぼーっと立っているだけだったら清潔になっている意味がないよ」
「はい、すみません」
そう言われても仕事が見つかるわけではなく、結局どうしていいか分からず、整っていく術野をただ黙って眺める。
(ああ、早く覚えないといけないな)
手術がしたくて外科医になったが、それ以前に手術に入る前の準備ができなければいけない。今の僕は、上の先生に「こいつに手術をさせてみよう」と思ってもらえるようなレベルではないのだ。