偲ぶ恋の熱田めぐり

――これは、後に幕臣として最期まで奮闘した新選組副長・土方歳三(天保六年~明治二年)として名を馳せた男とその許婚となった娘・お琴の物語。己が大志のために許婚を置いて、義兄弟の契りを交わした者や同じ夢を胸に持った者たちと共に上洛した彼の人。その一団を見送った許婚の胸中とは――

お琴は戸塚村の三味線屋の看板娘で近所でも評判の美人であった。三味線の調律に対しても腕が良く、お琴目当ての客が訪れることも少なくはなかった。お琴の両親も良い縁談があれば勧めたい気持ちもあるが、中々良い縁談話が上がらなかった。

良い縁談だと両親が思い、縁談の席を設けたことが過去にあった。しかし折り合いがつかず、見送りになった縁談ばかりだった。折り合いがつかない理由は、全員が口々に気立てがよく高嶺の花のようなお琴に己自身の容姿に自信がなくなるという言葉を多く聞き、お琴自身も縁談相手が決めたことなら仕方ないとそれを受け入れていた。

「いつも縁談が決まらないことで迷惑を掛けてごめんなさい」

縁談が決まらない度にお琴は両親に謝り、両親はその娘の姿を見ていられないくらい辛く感じていた。

「もう無理に縁づかせようとするのは止めたほうがいいだろうか」

「あなた……」

お琴が寝静まった夜に両親で話し合っていたが、世間から【行き遅れた娘】とお琴が言われ続けることにならないかと考えては悩みを繰り返し、この話に決着がつくことはなかった。

そして少し時間が経ち、普段通りに店の仕事をしていた日のこと。

「縁談ですか?」

「えぇ。私の末弟なのですが、どうでしょうか?」

常連客の男性、土方為次郎は石田村に住む農家の長兄に当たる。すでに両親は他界し、本来であれば為次郎が家督を継ぐべきだが、眼疾を患っていたこともあり、家督を次兄が継ぎ、襲名もしたと為次郎から聞いていた。

「ありがたい申し出ではあるのですが……」

「縁談になっても折り合いがつかないとは前にお聞きしました」

為次郎が常連客だったこともあり、両親も店に訪れる度に他愛ない話をすることも多い。常連客同士で話すこともあるため、そのときに知ったのだろうと両親は考えた。

「たとえ、その話を聞いていなくても私は縁談の申し出をしたと思います」