体に小さな変化が起きたとき、人はたいてい、その理由を身近なところで探してしまいます。
「歳だから」「疲れているから」。その理由が合っていることもあります。
しかし、「合っていなかった」と分かるのは、たいてい後になってからです。
18年間、国の指定難病である「パーキンソン病」を患う妻の介護をした男性も、妻を襲った最初の異変は「腰痛」のせいだと思っていたそう。
「パーキンソン病」という病名が分かったのは、最初の異変から2年近くが経ってからだったといいます。
しかし、判明するまでの間に「今思えば」という場面がたくさんあった、と振り返ります。
本記事は、宮本亮慈氏の著書『老老介護18年 パーキンソン病の妻を18年間介護した記録』(幻冬舎ルネッサンス)から、病名が分かるまでの日々を描いた箇所をご紹介します。
異変と困惑
妻は看護学院時代の気の合うクラスメイト数人と定期的に高尾山紀行を行っていました。
2年間で63回の紀行をし、"高尾山健康登山の証"という、1冊に21回の登山記録が記された冊子が3冊残っています。
ある時、高尾山で野点を楽しんだことがあり、「帰る時に立とうとしたらよろけて立てなかった」と帰ってきて話すのを聞いて、妻も私もいつもの腰痛のせいだとお互い納得していましたが、「今思えば」パーキンソン病からのシグナルだったのです。
また、これも罹患がはっきりする前のことですが、私が地方で仕事をして帰ってくる時には、いつも大きな荷物が一緒でした。
家から最寄り駅までは1kmほどで荷物を持って帰るのは大変だからと、いつも最寄り駅に自転車で迎えに来てくれました。
往きは荷物がありませんから自転車に乗って来ていると思っていたのですが、ふらついて乗れないので押して来たと言っていました。
「今思えば」これもパーキンソン病からのシグナルだったのです。
――しかし、当時はその「シグナル」に気づくことができませんでした。
妻の不調の本当の原因が分かったのは、腰痛で通っていた整形外科クリニックでの出来事がきっかけでした。
妻はパーキンソン病を発症する前から慢性的な軽度の腰痛があり、近所の整形外科クリニックでリハビリを受けていました。通院頻度はそれほど多くはなく月に数回程度でしたが、そこで異変が起こりました。
クリニックの診察室のドアを開けようとしたら、力が入らなくて開けることができないという、これまで経験したことのないことに遭遇し、普通でないということは認識しましたが、腰痛が原因だろうと。
しかし、整形外科の先生から何か他の病気が原因ということも考えられるから、設備の整った病院で診てもらった方が良いと言われたそうです。
整形外科の先生は多くの事例を見ていますから、病名の察しはついていたのかもしれません。
妻は腰痛が原因と思っていましたから、この時点では深刻にはとらえていませんでしたし、私も妻の話を聞いて腰痛が原因と疑いませんでした。
しかし「整形外科の先生が設備の整った病院での診察を勧めてくださるのには意味がある」と思い、妻はあらためて総合クリニックを受診しました。
そこでMRI検査を受けたところ、手足に力が入らないのは脳梗塞など、ほかの脳の病気によるものではないことがはっきりし、「パーキンソン病」の診断がおりたのです。
――腰痛だと思っていた変化から始まったこの病気が、その後の日々をどう変えたのか。
難病に罹患して18年間の闘病でしたから、当然のことながら病状はゆっくり悪化の方向に進み、病状に即した(少なくともその時点では良いと思われる)対応をしました。
要介護2から始まった要介護度は、病状の悪化に伴って要介護4、要介護5になりました。
要介護2から要介護5になったということは、それだけ身体障害、認知障害の度合いが進んだことを意味します。
通院による薬の投与から始まり、要介護認定を受けてからは、デイサービスとショートステイの介護支援を受けながら、基本は在宅での介護を続け、私の腕の中で天に召されました。八十二歳でした。
妻は18年間闘病生活を続け、私は数十億回拍動を続けた妻の心臓が静かに止まる瞬間の時を共にしました。
とても不思議な思いでした。
日頃“いつかは”とは思ってはいましたが、現実となると何とも言い難い気持ちの揺れがあり、一年経った今も続いています。
後期には毎月の訪問医療をお願いしました。
丁度訪問医療に来て下さったお医者さんと少ないながらも言葉を交わし、「いつもと変わりありませんね」と言っていただいた翌日の召天でした。
日常のありふれた不調が、実は病気からの重要な「シグナル」であることもあります。
気になる変化が続くときは、かかりつけの医療機関に相談してみてください。
※本記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療を目的とするものではありません。また、記載の内容は著者の家族に起きた記録であり、症状の現れ方には個人差があります。ここで挙げた場面が、必ずしも特定の病気を示すものではありません。
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