日本人の方二名の呼びかけにより日本の桜が空輸されこの景区に植樹されてきたということで、今では三万本余を数え世界の三大桜の名所になっている。今年(二〇一五年)は、三月二八日に中国の友人達と訪れ満開見ごろの桜の花見を堪能し合い、その数日後も訪れ、二回観賞し、日中友好の心魂に触れる思いがしたのである。
ここでまた、太湖近隣に在って、私の在住している総合大学江南大学の自然についても特筆しておこう。東西南北に各門が置かれて大学城(都市)を形成しており、冬の梅や木蓮の花に始まり、春には桜、桃の花などが開花して春爛漫の風景を現出する。
その後も菖蒲や名の知れぬ程の多種類の花々が開花して一年を装飾魅了するのである。緑化も進行中に見える。花々と共に木々の数も種類も昨今では更に多くなり野鳥や昆虫の姿や水生動植物の棲息繁茂などが明らかに多く見られるようになってきている。
更にその中心を成すとすら言える無数の柳の木が有り、水路の水辺に他地域と共演するかのように多数の並木を形作っている。もし、日本が桜の国と言うなら、正に中国は柳の国と言える感がしている。そしてこれらを含めた緑草木(りよくそうもく)の繁茂の中に学舎が存在して私の暮らしも有るのである。
此処、無錫に来て以来、多くの既在留の邦人の方達や日本語の出来る中国人の方達のお世話になりながら留学生活を営んで来た。誠に有り難いことである。殊に、中国語の進歩の見られない私に対して出会う度毎に「上条(シヤンテイヤオ)、你好(ニーハオ)!」と繰り返し優しく声を掛けて呉れた若い女性の老师(ラオシ)(先生)の声に胸を熱くしつつ今日に至っている。
誠に言い尽くせぬ感謝な思いである。
今回の出版は二一〇〇首の短歌と、三九首の漢語短歌で成っているのであるが、私の詠んだ短歌の大半は、このキャンパスの光景である。漢語短歌は二一〇〇首の短歌の中の三九首を選出し中国語に翻訳した作品である。
当初は私が中国語に翻訳したものを、学内日本語学科の学生達に不自然な表現などに修正を施して戴いていたが、多用などで定期的な作業に困難を来していた。その矢先「日本語で対話をしたい」と言う要求を抱いた学内人文学院大学院生の钟斯陶(ジヨンスタオ)氏と出会ったのである。
彼女は、小学生のころ二年間程日本(仙台)で暮らした経験があり、日本語も大変流暢であった。対話をしながら私の翻訳した漢語短歌を見て戴いた。彼女は、大変関心を示してそれ以来、成語の使用などを含めて中国人が読んでも立派に読める漢語短歌三九首を完成させてくださったのである。感慨無量である。
私は、美麗豊かで風光明媚に満ちた都市、無錫という街と、緑と花々で囲まれた江南大学学内に在ってその感動を読み続けてきた。甚だ、未熟な私奴の短歌であるが少しでもその良さを届けられれば何よりも幸いである。
上條 草雨