カイも誠も適合手術も家裁に申し出もしていないし、ヒゲも必要なく、立って放尿することにも憧れなかったが、精神的には男だった。
表面だけ繕ってもそれは本物ではない! 生んでくれた両親への感謝は! 五体満足で生まれたのに! 子供が作れなければ人類の存続はどうする! 自分勝手だ!
いろいろな考え方があり、どれも正論だ。それでも男ホルを打つ者はその注射を受けるたびに生きる勇気が漲(みなぎ)り、カイのように平らになった胸で愛する人を素肌に抱きしめるたびに本当の自分になれたと歓喜を叫ぶ者がいる。
好きな人を自分の指と舌で繰り出される行為でいかせてあげたかったし、好きな人に挿入という行為で快感を与えたいためにペニスバンドを着けることもあった。
自分の股間が愛する人に打ちつけられるたびに、子宮の奥を打たれ喘ぐ声に、耳が無類の興奮を覚え、もだえるその姿にクリトリスが血液に満たされ充溢していくのを感じ、愛する人の姿に男である心が喜悦を叫んだ。
芽生えさせようとして芽生えさせたわけではないこの感情に懊悩(おうのう)する者がいる。正論は分かる。でも、自分ではどうすることもできないのだ。この感情を他人に理解されようと努力する者もいる。けれど理解されずに悲しい思いをすることもある。
別に理解できなかった者も理解されようと努力した者も悪くない。人それぞれに感情と感覚がある。それぞれが持つフィールド(領域)を侵さなければ何も問題は起きないのだ。けれどそれでも人は人を求める。そして強く惹かれる相手には、特に自分を理解させようともする。
カイは理恵と居られることで精神的に満たされていたし、誠は恋心を秘めながらワンナイト(一夜限り)で寂しい心を誤魔化したり、ミックスバーの店子として人気もあることで心を紛らわしていた。
そんなカイと誠の付き合いは、カイがこの二丁目の世界にまた戻った頃、誠が店子をしているミックスバー『BLUE』にカイが飲みに行ったことがきっかけだった。
曇天の気持ちを抱えながらビアンの世界へと戻ったカイは(自分の人生なんだから、いいって思うほうでいいじゃないっすか!)誠の竹を割ったような性格に希望を持つ事ができた。
カイは(かっこいいですね)と言われることがあるが、その度(ありがとうございます)と言いながら照れくさそうに切れ長の目で少し俯いて、軽く鼻を鳴らし微笑んで見せる。その微笑み方がキザだと思う人もいるし、ドラァグクイーンのママのように目をハート型❤にする人もいる。
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【イチオシ記事】見つめながら、触れたいという不思議な感情が芽生えた。あの人の体に、頬に、髪に、唇に。緊張感のない弛緩しきった肉体は、無警戒な心そのものだった。
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