案内員がこのようなカップルを発見するたびに、「こんな真っ昼間からイチャイチャして……」と羨ましそうに? 一人言を連発する姿は微笑ましいかぎりでした。私にはこの出来事が当時はすごく新鮮で、現地の人を身近に感じる出来事になりました。

このように中央植物園はカップルの「いちゃつき場」……ではなく、「憩いの場」となっていたのです。結局、案内員が私と一緒に昆虫採集をするよりも、最後までカップル探しに精を出していたので、ここでは終了〜。

帰路で植物園の採集を思い出しながら、ふと、このような日常が日本で少しでも報道されたらどれだけ「北朝鮮」に対する印象も変わるだろうかと思いました。

植物園では、結婚式用の写真を撮るために新郎新婦が着飾ってカメラマンと一緒にいる姿もよく目にします。もちろん、子どもたちは走り回り、家族連れでピクニックにも来ています。園内の植物を勝手に持ち帰ろうとして注意されているお婆ちゃんも(笑)。

(このほんの少しの光景でいいのに……)

昆虫をあまり採れなかった悔しさと、日本の報道とのギャップからくる残念さが入り交じり、複雑な気持ちを抱えたまま、私はホテルへと帰っていきました。

■平壌(ピョンヤン)で採集をして

滞在している期間に、平壌市内の中心部に位置する牡丹峰(モランボン)でも採集を行いました。

ここは、高句麗(コグリョ)時代の遺跡が今も残る平壌市の中心部に位置する公園で、多くの人々の憩いの場となっています。採集も行ったのですが、満足のいく結果を得ることはできませんでした。

今回、平壌市内で採集した虫たちを見て私が感じたことは、約70年前にあった朝鮮戦争のことでした。

昆虫類全般に言えることだと思いますが、特に私の専門とするカミキリムシの仲間は、幼虫が主に樹木を食べて成長することから、その生息密度や多様性が樹林の豊富さや樹種の多様さに左右されます。しかし、今回平壌で採集をしながらカミキリムシ類があまり採集できていないことに気付きました。

そしてふと、朝鮮戦争との関連を模索するようになったのです。

平壌市とその周辺は当時、その地域の人口よりもはるかに多い数の爆撃を受けたことが記録されています。現地の人から、その爆撃によって平壌の標高が平均して1m以上下がったという話も耳にしました。そのために「自然環境の歴史」が浅く、採集が困難なのではないかと考えたのです。

もちろん、樹木の生育環境として朝鮮半島の東側に山地が多く、平壌が位置する西側はより平地が多いことも関連していますし、半世紀以上も続く経済制裁によりエネルギーが不足していることから冬季は薪を多用することなど、複数の要因が絡み合っていると思います。

しかし、朝鮮戦争の影響を抜きにしては、平壌の自然環境、いえ、朝鮮の自然環境全体を考察することは難しいと強く感じました。

 

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