「とりあえず医療」が患者の体を悪化させる

溝口:先ほど中村さんから質問を受けた鉄分摂取のことですが、まず貧血になるメカニズムを知っておく必要があります。貧血は、血色素というヘモグロビンの量が不足すると起こります。ヘモグロビンは赤血球の中にあります。

ヘモグロビンが少ないと当然ながら酸素を運ぶ量も少なくなり、末端組織の部分で酸欠状態が起き、フラフラしたり立ちくらみしたりするんです。それで、鉄分を多く摂ろうということで、「レバーをたくさん摂ろう」「鉄分のサプリメントを買わなくちゃ」と躍起になる方がいますが、それだけでは不十分です。

中村:鉄分を摂るだけではダメなんですか?

溝口:鉄分を摂ろうという意識は大切です。しかし、野球に例えると、ピッチャーの投げる球を捕るには、それを捕るキャッチャーも必要です。鉄分もそうです。

ヘムって何だかわかりますか? これは鉄分のことを言います。グロビンはタンパク質です。合わせて、ヘモグロビンと言います。詳しく言うと、鉄以外にも銅、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ニコチン酸などが含まれており、グロビンタンパク質とヘム(鉄分)が合わさってヘモグロビンは成り立っているのです。ですから鉄分だけを摂っても貧血の根本的な解決にはなりにくいのです。

中村:お医者さんから鉄分の錠剤を処方される時がありますが、それを飲んでおけばOKなんでしょうか?

溝口:パーフェクトではありません。これもいわゆる医者の「とりあえずビール」的な処方です。「とりあえず医療」の典型ですね。先ほどもお話ししましたが、鉄分だけではなく、グロビンタンパク質、各種ビタミン、ニコチン酸、銅などがまったく入っていないのですから、鉄剤だけでは根本的な解決までには至りません。