由起夫 あっ、この人が、オレを救ってくれたお医者さんの、山下さん……いや、先生。
恵一 (混乱しながら、泣いている)ああ、山下っていう名前だった。
マリ 山下先生ですか? 由起夫がお世話になりました。あの……私の名前、どうして?
由起夫 今キミの話をしていたから。
マリ ああ、そうなの。ビックリした。
由起夫 驚かせて申し訳ないことです。
マリ はあ? あの、先生はお加減いかがですか? 幻覚とか記憶障害とかあるらしいのですけど。この人の場合、別人みたいになってしまって。自分のこと「ボク」、私のこと「マリさん」とか呼ぶし。気持ち悪くって。この人、無茶苦茶な人だったのに。
恵一 (まだ泣いている)……。
マリ あの、私何かいけないこと言いました?
由起夫 この方も、事故の影響がまだ残っているみたいで。
恵一 おまえ……いやあんたを見てると、昔の恋人を思い出しちまって。
マリ そうなのですね。つらい思い出がおありなのですね。
恵一 つらい。こういうのが、「つらい」っていうのかって初めて分かった。胸がホントに痛くなる。
マリ そうなのですね。そんなつらいこと思い出させてしまってスミマセン。あの、私、ここで失礼します。あっ、由起夫。洗濯物は持って帰るね。それと冷蔵庫にロールケーキ入れているから、早めに食べてね。じゃあ、また、明日。
マリは由起夫をハグして部屋を出て行く。
恵一 (号泣)うお~! ぐうう!……ロールケーキ!
由起夫 食べたいのですか?
恵一 バカヤロウ! 感動してるんだ! なんて優しい女なんだあ!
由起夫 そうですよね! ムカついてきました。あなた、マリさんを泣かせたりしてないでしょうね!?
恵一 (号泣)小っちゃな頃から悪ガキで警察の世話にもなって、親からも見放されて、仲間もみんな裏切って、地元じゃ鼻つまみ者。だけど、マリだけは、オレを見捨てなかったんだ。
由起夫 ひどい男ですね。
恵一 オレがオレ本人から「ひどい男だ」って非難されるってダメージ大きいなあ!っていうか、なんであんたがマリに優しくされて、洗濯物まで持って帰らせて、その上にハグまでされるんだ!?
恵一は由起夫につかみかかるが、若い由起夫には歯が立たない。簡単に制圧されてしまう。
恵一 なんでオレがオレに……!?
由起夫 どうか落ち着いてください。
恵一 オレはつらい。こんなオッサンと入れ替わって、恋人も奪われて、洗濯物も洗ってもらうって。
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