この時、母親は子どもの病気を治すために一生懸命介護をし、病院通いなどをしているのですが、このかいがいしくわが子のために頑張る母親という自己像を得ることが目的なのです。
虐待には様々なものがありますが、その背景に子どもに対する愛情が必ずしもないとは言い切れない場合があります。しかし、今述べたような事例や代理によるミュンヒハウゼン症候群には、子どもを守り育むという母性はほぼ感じられません。このように血のつながりは絶対ではありません。
Zさんのことに話を戻すと、「母親を嫌ってもいいでしょうか」という問いに「もちろん。嫌ってよいです」とカウンセラーが答えました。するとZさんはちょっとびっくりしたような顔をしましたが、ほっとしたように「これで眠れます」と言いました。
「親を嫌ってはいけない」という世間の常識のもと、Zさんは長年、母親を嫌ってはいけない、好きになろうとずっと努力をしてきたのですが、どうしてもそれができず悩んでいたのです。
Zさんには母親との良い思い出はほとんどありませんでした。話を詳しく聞くと、母親はZさんに対して、いわゆる母親としての愛情らしきものはもとより、子どもを守る姿勢もなく、いつも心ない言葉をZさんに浴びせ続けていたとのことでした。もちろん、褒められたことなど一度もありませんでした。
大人になっても、何かにつけ親の言葉が頭の中に鳴り響くという人がいます。今、起きている何かがトリガー(引き金)になり、幼少期に親に言われた言葉がフラッシュバックするのです。
それはたいてい、「あなたにはできない」「ダメな奴」「出ていけ」「要らない」「消えろ」など、本人を否定し、排除するネガティブな言葉です。大人になっても、それらの言葉に知らないうちに考えや行動が支配されていることがあります。
一方、親は自分が産んだ子に対して、無条件に愛情を持つものという常識(?)が一般的にはあるようです。確かに多くの場合はそうですが、そうではない場合も少なくありません。自分の産んだ子どもに対して母性のスイッチが入らなければ、母親としての自然な感情は出てきません。
その場合、親子関係は破綻し、子どもは救われないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。親が一人の人として基本的な人権の尊重という姿勢で子どもと向き合えば、子どもは救われます。
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