「自分は何がしたいのだろうか」
「社会とどう関わっていきたいのか」
「人生をどうしたいのか」
今まで正面から考えたこともなかった。
「取りあえず、学内講座で勉強して公務員試験でも受験してみようかな。予備校に通うよりは安いし、大学のキャンパスでそのまま講座を受講できるから予備校に行く手間もかからないし。就職活動もできる範囲でやってみて、そこでまた考えたらいいし」
生まれ故郷で地元の忍者県を第一志望に決定して、学内講座の初日が始まろうとしていた。
大きな声では言えないが、浜田はキスすらしたことがなかった。付き合ったことのある異性は何人かいたが、キスをする前にフラれるというのがそのパターンである。
二人っきりでいい雰囲気になったとしても、携帯電話がいきなり鳴ったり、車のクラクションが鳴って近くをフルスピードで通過するなど、図ったようにアンラッキーな出来事が起こるのだ。また、長距離恋愛でお付き合いしていたことも多く、そうなれば会うことすらままならず、当時はスマホやネットもなかったので切ない状況であった。
そんな浜田に恋愛相談を持ち掛ける受講生がいる。平武志(たいらたけし)というしずかと同じく室町学院大学の学生である。去年二年生の公務員試験入門講座に来ていた学生で、三年生用に公務員試験講座の繰り上がったクラスにも参加している。二年続けて講師浜田が教えるというのは、珍しいパターンである。平さんは、かなり浜田を信頼しているようだ。
講師浜田が土曜の午前に、早めに教室に着いたので講義の準備をしていると、同じく早めに教室にやってきた平さんが、講師浜田に話しかけた。
「彼女と別れるかもしれへんねん」
と。まるで劣等生にテストのヤマを訊くようなものだ。それでも講師だから浜田は答える。
「それは相手にもいい人がいるんだよ」
と。テストのヤマが外れたアドバイスだった。
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